魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

(日本語訳)エドガー・アラン・ポー「ドリームランド(Dream-Land)」他一篇

鐘(The Bells)Ⅱ

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ソフィー・アンダーソン「雉鳩」。ウィキメディア・コモンズより。

聞き給え 結婚式の鐘の音
 黄金おうごんの鐘の音を
いかに幸せな日々の到来を そのハーモニーは告げることか
 薫る夜気の中で
いかに快哉かいさいを叫ぶことか
とろけた黄金きんの音色は
 すべて和音となって
  月影に笑む雉鳩が
 耳傾けるこずえへと
いかに甘美な歌が浮かびただようことか
おお その鳴り響く細胞から
何たる快音の奔流が澎湃ほうはいと湧き出でることよ
 それは高まる
  将来に
 胸ふくらませ 物語る
身を衝き動かす感激を
揺れて鳴るひびきにつれて
 鐘の 鐘の 鐘の
鐘の 鐘の 鐘の 鐘の
 鐘の 鐘の 鐘の
鐘のひびきの美につれて

ドリームランド(Dream-Land)

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オラウス・マグヌスのカルタ・マリナ(1539年)に描かれたトゥーレ(Tile)。ウィキメディア・コモンズより。

悪しき天使しか出没しない
暗くさびしいルートをたどり
それは「夜」という名のエイドロンが
黒い玉座の上の支配者として君臨するところ
かの最果ての地トゥーレより
今ふたたびここに着いたばかり
「時間」と「空間」の外に厳として横たわる
あの魔境から来たこの私は

見下ろす谷は底知れず みなぎる水はとめどなく
地は裂け ほら穴は穿うがたれ 巨人タイタンのごとき樹々は茂る
一切のかたちが定かではないのは
涙が一面にしたたっているから
山は絶えず海へと崩れ
その海に海岸は存在しない
その海はまた炎の空へ昇らんとして
休む間もなく荒波を打つ
みずうみはその面積を拡げに拡げ
そのさびしい水面は死んでいる
その静止した水面の温度は低く
雪よりも白い百合がしなだれかかる

みずうみはその面積を拡げに拡げ
そのさびしい水面は死んでいる
その悲しみに満ちた水面の温度は低く
雪よりも白い百合がしなだれかかる
山道を行けば せせらぎがあり
さやさやとささやき さらさらと流れ
灰色の森を過ぎ 沼地をわたり
そこに住まうはカエルやイモリ
到るところに陰気な池沼プール
 そこにひそむはグール
もっとも悲痛なあらゆる暗部ヌックにおける
もっとも不浄なあらゆる急所スポット*1
そこで我々は「過去の記憶」と
出会ってことごとく色を失う
我々のかたわらを通過しながら
慨然と嘆息する蒼ざめた影
それはかつて苦悶のうちに土に還り
天に昇った友人たちの白衣の姿*2

悲しみが大勢ギオン*3である者にとって
ここは癒しの里と言ってよかろう
幽界をさまよう魂にとって
ここはエルドラドだと言っていいだろう
だが我々はこの国を旅しながら
その有様を決してあからさまには見ない
覚醒した人間の半端な視力では
この不可解な光景を正視できない
この国の王は旅行者が目をさますことを
勅命をもって禁じた
だから我々は暗い鏡に映る影を
ただ行きずりに見るに過ぎない*4

悪しき天使しか出没しない
暗くさびしいルートをたどり
それは「夜」という名のエイドロンが
黒い玉座の上の支配者として君臨するところ
私はかの最果ての地トゥーレより
今ふたたび帰路に就いたばかり


映画『岸なき海(Sea Without Shore)』(2015年、イギリス)の予告編。
www.youtube.com

*1:この二行はおそらく「墓場」と「墓」のことを言っているのだと思います。

*2:「小羊が第五の封印を開いたとき、神の言葉と自分たちがたてた証しのために殺された人々の魂を、わたしは祭壇の下に見た。彼らは大声でこう叫んだ。『真実で聖なる主よ、いつまで裁きを行わず、地に住む者にわたしたちの血の復讐をなさらないのですか。』すると、その一人一人に、白い衣が与えられ」(新共同訳新約聖書ヨハネの黙示録』6:9 - 11)

*3:「そこで、イエスが、『名は何というのか』とお尋ねになると、『名はギオン。大勢だから』と言った。」(新共同訳新約聖書『マルコによる福音書』5:9)

*4:「わたしたちは、今は、鏡におぼろに映ったものを見ている。だがそのときには、顔と顔とを合わせて見ることになる。」(新共同訳新約聖書『コリントの信徒への手紙』13:12)