魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

抒情詩「地下に監禁される日々」他一篇

トニ・ロベール=フルーリ「パリの精神病院において患者を鉄鎖から解放する精神科医フィリップ・ピネル」。ウィキメディア・コモンズより。

わからないわよ あなたには

「死んだことのない人が、死んだ人のことがわかるかな」――山下清

わからないわよ あなたには
 一度は死んでみなければ
 二度も三度も殺された
女子の気持ちはわからない
胸を刺されて失血死
 突き落とされて墜落死
 果ては焼き場で焼死して
もう肉体はぼろぼろよ
肉体よりも精神よ
 心の傷は癒やせない
 からだは買えば済むけれど
心はそうは行かないの
愛した人に殺されて
 その愛人に殺されて
 親にも子にも殺されて
もう精神もぼろぼろよ
少し寿命が長いだけ
 少し苦労も多いのよ
 だけどわたしは不老不死
気にしない 気にしない
だからあなたは知らないの
 あなたは何も知らないの
 一度わたしと死んでみて
いい経験になるかもよ

地下に監禁される日々

地下に監禁される日々
 罪を重ねるこの遊び
 さらさらと鳴るこの鎖
中毒になるこの薬
今日は狂人 あす死人
 だからしなくていい避妊
 抱かれたいから脱いだ服
父さん 遊ぶ金が浮く
ねえお父さま このわたし
 紳士に奉仕する天使
 好きにしていい人形よ
もう人間は廃業よ
縄でしばって鞭で打ち
 つるせば みごと地獄
 死んだわたしを抱きしめて
浮いたお金でうるおって

地下に監禁される日々
 罪をつぐなうこの遊び
 さらさらと鳴るこの鎖
楽に死ぬならこの薬
今日は犯人 あす死人
 ちなみに彼はもう他人
 今の奥さん 超美人
今の愛人 大詩人
だけどわたしは不老不死
 歴史に奉仕する天使
 千年生きているお化け
死ぬのはいつも他人だけ
どうせ効かないこの薬
 しっかり飲んで死んだふり
 生き返るまでひと眠り
起きてびっくり またひと