至高の天の命により この退屈な世の中に
いわゆる「詩人」なる者の一人が生を享ける時
怖気をふるい 冒涜の念に駆られた母親は
憐れみ給う「神」に対して 拳骨を振り回します
「ああ このような物笑いの種を育むくらいなら
どうしていっそ毒ヘビの群れを出産しなかったのか
わたくしがこの天罰を この贖罪を身ごもった
その場限りの快楽に満ちた一夜よ 呪われよ
よくもすべての女性からこのわたくしを選り抜いて
悲嘆に暮れる連れ合いの嫌悪の的としてくれた
とはいえこんな虚弱児を こんなひよわな化け物を
艶書のごとく 火中へと投ずることもできぬゆえ
このわたくしを打ちのめす 神よ 貴様の憎しみを
わたくしはこの呪われた楽器の上にぶちまけて
病原菌を撒き散らす花が決して咲かぬよう
枝が蕾をつけぬよう この木をうんと捻じ曲げてやる」
母はこうして憎しみの唾液の泡を飲み干すが
もとより『神』の意図などは とんと解せぬ身ですから
彼女自身の手をもって ただゲヘンナ*1の奥底に
母性の罪を焼き尽くす火あぶり台を築くだけ
とはいうものの 目に見えぬ守護の「天使」に導かれ
廃嫡の「子」は燦々と照らす日ざしに酔い痴れる
その飲料はことごとくヴェルメイユ色のネクトール
その食料はことごとくアンブロシアの味がする
風と戯れ 雲と語らい
彼はみずから「十字架の道」を歌って上機嫌
そうして彼の巡礼の旅に従う「精霊」は
森の鳥ほど楽しげな彼の姿に涙する
彼が仲よくなりたいと願う男女はことごとく
恐れて逃げる さもなくば大人しいのにつけ込んで
いったい誰がこいつから愚痴の一つも引き出せるかと
思い思いに残忍な仕打ちを敢えて試みる
「詩人」の日々の糧として割り当てられたパンや酒
そこに彼らは灰を混ぜ きたない唾を吐きかける
さも廉潔の士のごとく「詩人」が触れたものを捨て
うっかり彼の足跡を踏んだといって自責する
「詩人」の妻はあちこちの公共の場でわめきます
「拝みたいほど綺麗だと彼は思っているのです
だから私は異教徒の神の役目を務めよう
古像のごとく 全身に金のメッキを施そう
そして淫祠の神として甘松 乳香 没薬や
跪座礼拝に酔い痴れて 酒池肉林に耽溺する
それはげらげら笑いながら 私に惚れた男から
『神』を敬う信心を僣取できるか知るために
とはいえ こんな怪しからぬ遊びにも飽きた暁は
この華奢にして強力な片手を 彼の上に置く
私の爪はハルピュイア あの怪物の爪のよう
刺さり 食い込み 貫いて 彼のハートを鷲づかみ
孵ったばかりのヒナのよう ピクピク脈を打っている
真赤な彼の心臓を 私は胸からえぐり出す
そして私の大好きな獣のエサとするために
まるで汚物を捨てるよう 地面に叩きつけましょう」
「天」に向かって そこにこそ「神」の玉座を見据えつつ
信心深く 落ち着いて「詩人」は両手を差し上げる
その澄明な精神が放つ無量の光芒は
激怒している人々の影をきれいに消すのです
「罪にまみれたわれわれを洗い浄める禊のごとく
または不屈の者どもへ 大快楽に耐えんがための
最良にして至純なる強精剤を下さるごとく
苦悩を俺に下さった神よ あなたに祝福あれ
俺にはわかる わが『神』は聖人たちの『軍団』の
序列のうちに『詩人』なる者の座席を確保して
『座天使』『主天使』『力天使』などの天使が寄り集う
あの永遠の宴会に 俺を招いて下さることを
俺にはわかる 幽冥の境を問わず 苦悩こそ
決して曲がることのない気高い血筋の証だと
そして『詩人』の不可思議な王冠を編む過程では
あらゆる時間ともろもろの宇宙が協働するのだと
とはいえ 未知の貴金属 海で生まれた真珠など
あのパルミラの伝説の秘密の富を取りそろえ
たとえわが『神』ご自身の手を借りたとて このような
まこと眩い宝冠を星飾るには不充分
なぜならこれは原始的熱線を生む聖炉*2より
抽出された純粋な輝きだけで出来ており
たとえ佳人の明眸の最も清きものといえども
明度の遠く及ばない悲しい鏡に過ぎないからだ」
*『悪の華』初版1。原文はこちら。