魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

クリスティナ・ロセッティ「アット・ホーム」他六篇

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D.G.ロセッティ作「受胎告知」。マリアのモデルはクリスティナ(絵の完成当時20歳)。ちなみに手前の天使のモデルはのちにクリスティナの全詩集を編纂し、注釈を附けたウィリアム・マイケル・ロセッティ。ウィキメディア・コモンズより。


 

スリー・シーズンズ(Three Seasons

「希望に乾杯」と彼女は言った
花咲き初めた早春の頃
彼女の唇の濃厚な赤に比べれば
ワインの真紅も 色褪せて見えた

「恋に乾杯」何と低くて
甘いささやき その間中ずっと
彼女の顔には微笑みのさざなみが
冬を忘れたかのように咲いていた

「思い出に乾杯」それは誰もが
独りで飲み干さなければならない 冷たい杯
秋風が立ち 呻吟しながら
不毛な海を渡る頃に

希望 恋 思い出
希望は朝のために 恋は真昼のために
そうして思い出は夕暮れと
伴侶のない鳩のために

トリアド(A Triad)

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D.G.ロセッティ作「ローザ・トリプレックス」。ウィキメディア・コモンズより。

三人の少女が恋を歌っていた そのうちの一人は
 唇は真紅 頬も胸も真っ赤に染めて
金色の髪の先から爪先まで 燃えるように光り輝いていた
 もう一人は 雪のように白く優しく
 色づいたヒヤシンスのように花咲いていた
またもう一人は思わぬ人を思いながら
 弦の切れたハープのような とても美しいとは言えない声で
彼女が歌っているものの苦しさを訴えていた
一人は恋ゆえに身を誤った もう一人は
 愛に満腹し 次第に堕落して 愚鈍な主婦と化した
一人は愛に飢えたまま死んだ こうして三人のうち二人は
 恋に命を捧げ 命と引き換えに思いを遂げた
もう一人は肥満せる蜜蜂のごとく 無為に生涯を過ごした
 みんな人生の入口で 人生を知らないで終わった

クイーン・オブ・ハーツ(Queen of Hearts)

ねえフローラ どうして私たちが
ゲームをするときはいつでも
 カードがいくつの山に分かれていても
 ハートの女王はあなたの手にあるのかしら

あなたの秘密を見破ろうとして
疑惑のまなざしで そのカードさばきを見つめた
 けれど どんなに吟味してみても
 あなたの謎は解けない

カット シャッフル  もう一度カット そしてシャッフル
私がいくら札を混ぜても空しい
 それは空しい希望 空しい先読み
 彼女はやっぱりあなたの手に落ちている

彼女をわざとテーブルの下に落としてみたことがある
ところがカードが配られると 本能的に彼女がいないことに気が付いたのか
 「一枚足りない」と言って
 あなたは床を探した

いかさまをしたこともある ハートの女王の背中に
こっそりとキズを付けて しっかりと見張っていた
 ところが同じ後ろ姿に
 私はだまされてしまった

何者かの手が クラブの女王に
私が付けたのとそっくりのキズを付けていて
 こうして私が付けたのではない目印に引っかかり
 私は破滅した

この謎の解明に 私はとまどうばかり
それはスキルなのか 策略なのか それともただラッキーなだけなのか
 それとも あなたと彼女とは生まれつき
 惹かれ合うものがあるのかも知れない

アット・ホーム(At Home)

私が死ぬと 私の魂は踵を返して
 生前足しげく訪れた館へと向かった
中に入ると 私の友人たちが
 オレンジの瑞枝のもとで 宴を催していた
皆は盃を上げ 酒を酌み交わし
 プラムやピーチの果肉にむしゃぶりついていた
そうして歌をうたい 冗談を言い げらげら笑っていた
 それはみんな仲よしだったから

みんなの本音トークに耳を傾けた
 一人が言った「明日になれば 私たちはまた
砂漠のような道を歩きに歩き
 港から港へと舟をさまよわせるのかしら」
一人が言った「もう少し頑張れば 流れが変わる前に
 もう一つ上のランクが手に入るのよ」
一人が言った「あしたも 今日と変わり映えがしないかも知れないけれど
 きっともっといいことあるわ」

「あした」とみんなは強く明るく
 悲しい物思いにふけることなく言った
誰もが「あした」と叫ぶばかりで
 昨日を語る者はなかった
みんなの人生は今や中天に輝き
 私だけが暗闇に消え去っていた
「今日 そしてあした」と皆がわめいた
 私は昨日の人間だった

私は悔しくて身ぶるいをした
 けれどテーブルクロスにさざなみは立たなかった
私は悔しさに身をふるわせた
 去るのはつらく さりとてとどまるのも惨めだった
私はその懐かしい部屋から去った
 私は愛から姿を消した
まるでたった一日だけ出発が遅れた
 旅人の名残りのように

アフター・デス(After Death)

カーテンはなかば開かれ 床は掃き清められ
 そうして私が寝かされていたベッドは
 イグサとともに撒かれたローズマリーとサンザシの花に埋もれ
格子窓はツタが絡んで薄暗かった
彼は私の上に身を傾けた 私が眠っていて
 何も聞こえないと思いながら しかし私は
 彼が「かわいそうに」という声を聞いた それから彼が顔をそむけると
深い沈黙が来て 私は彼が泣いていることを知った
彼は私が着せられている白い服にも 私の顔を
 覆っている白い布にも 私の手にも指を触れず
  私の枕もとに泣き伏して シーツにさざなみを立てることもなかった
  生きているうちは 愛してくれなかった それが死んでしまうと
 憐れみを垂れてくれた そうして私が冷たくなっても
彼がまだあたたかいのは気持ちよかった

ポーズ(A Pause)

私の部屋は花と緑とで飾られ
 私が寝かされていた寝台もまた花で飾られていた
 しかし私の魂はまだ迷いのうちにあった
私の耳には もはや軒端に歌う鳥の声も
収穫物の間で語らう農夫たちの声も聞こえなかった
 ただ私は来る日も来る日も待ちわびていた
 私の淋しい心はただ一人の人の帰りを待ちわびていた
私は彼がたぶん悲しんでくれるだろうと思っていた
やがて階段をのぼってくる足音がして
 あのなつかしい手がドアの取っ手に触れたのだった
そのとき私の魂ははじめて天上の世界の
 香気を知った はじめて鉛色の時の流れが
金色に輝いた そうして私の髪は
 栄光をいただき 心が解き放たれるのを感じた

ミーティング(Meeting)

私たちは生きるかも知れない
 私たちは死ぬかも知れない
生きていれば もう一度会えるかも知れない
 それでは今夜はこれで
あなたからも 何かひとこと言って下さい
 お願いだから ひとこと

私たちは眠って そうして目がさめて
 太陽を見るのかも知れない
生きていれば もう一度会えるかも知れない
 それでは今夜はこれで
それにしても ひさしぶりに会えたというのに
 あなたは答えない

 生きていても一緒にはなれない
死んだら離ればなれだ
 死ねば たとえ離ればなれになったとしても
もう一度会えるかも知れない
夜が明けてあなたは両頬の涙で
 私に答えてくれるかも知れない

 会うためなら生きていてもいい
死んでもいい 会うためならば
 会うためなら別れてもいい
それは束の間の苦しみだから
今は離ればなれになったとしてもかまわない
 永遠に結ばれるためなら