魔性の血

拙訳『吸血鬼カーミラ』は公開を終了しました。

(日本語訳)ボードレール「この世の外ならどこへでも(Anywhere Out of the World​ )」

フランツ・ディデリック・ボエ(Frants Diderik Bøe)「白夜の海鳥」。ウィキメディア・コモンズより。

人生は一つの病院で、全患者が病床を交換することばかり考えている。暖炉の前で苦しみたいと願う者もいれば、窓辺で治るはずだと信ずる者もいる。
俺も自分が不在の場所でこそ、常に元気でいられるような気がする。引っ越しは、俺がわが魂と絶えず議論を交わしている一つの問題である。
「教えておくれ、俺の凍えた魂よ。リスボンに移り住んではどうだろう。あそこは温暖に違いないから、お前も蜥蜴とかげみたいに回復することだろう。あの街は水辺にある。聞いた話では、それは大理石で建てられた街で、住民はあらゆる樹木を引っこ抜くほど植物が嫌いなのだそうだ。お前の好みにぴったりの風景がある。光と、鉱物ミネラルと、それが映る液体とでできた風景だ」
わが魂は答えない。
「動くものを眺めながら、じっとしているのが好きなお前は、人を幸せにするあの国、オランダに行って暮らしたくないか。お前は美術館でよくオランダの絵を観て喜んでいたから、あそこへ行けばおそらく気が晴れるだろう。ロッテルダムはどうだ。お前の大好きな帆柱マストの森や、家並みの土台に繋がれた船の数々が見られる」
わが魂は黙ったままだ。
バタヴィアの方がもっとお前に微笑んでいるかも知れず、そこではヨーロッパの才気エスプリと熱帯の美とが仲睦まじく暮らしている」
沈黙。わが魂は死んだのかしら。
「お前の無感動は限界ポイントに達して、とうとう苦痛以外の楽しみがなくなってしまったのか。それではの国に似た国々へと逃げ出そう。あわれな魂よ、この俺が万事引き受けた。荷物をまとめてトルニオへと旅立とう。いや、もっと遠く、バルト海の果てまで行こう。いやいや、もっと遠く、できるなら、もっと命の気配のしない彼方まで。俺たちは北極をつい棲家すみかとしよう。そこでは太陽は大地を斜めにかすめるのみで、明暗の緩慢なる交代が多彩を抑制し、虚無の半身であるところの単調を増大させる。そこで俺たちは暗闇に長々とひたることができる。時として北極光は、俺たちを喜ばせようと、地獄の業火の反映のごとく、薔薇色の光の雨を降らせてくれることだろう」
わが魂が遂に口を利き、悟り澄まして叫ぶには「かまわないわよ、どこだって、この世の外でさえあれば」

*『小散文詩集(パリの憂鬱)』48。原文はこちら。タイトルについてはトマス・フッド「溜息橋」参照。

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