魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

BAND-MAIDの「After Life」

2022年10月、ロサンゼルスのベラスコ劇場にて。bandsintown.comより。

BAND-MAIDのメタモルフォシス

今年結成10周年を迎えるというBAND-MAIDメイド服とハードロックのギャップで魅せるという明確なコンセプトを持ったガールズバンドである。このコンセプト自体は一貫して変わらないものの、彼女たちの音楽は年々過激化しており、そのチャラチャラした見た目との落差はすでに天と地ほどに拡大していて、このギャップ地獄にひとたび落っこちた者(私みたいに)はもはや一生這い上がってこられないのではないかと危惧される事態となっている。
進化(evolution)という言葉は学術用語ですし、この不可思議な現象のメカニズムについては未解明の部分も多いわけですから、私としてはこの言葉をあまり軽々しく使いたくない。他方、BAND-MAIDの音楽的変貌については(私なんかよりファン歴の長い方々の方が詳しいでしょうが)「成長」とか「進歩」とかいったありきたりな言葉では片づけられない面があることは私も承知している。私見ではBAND-MAIDの「変態メタモルフォシス」と呼ぶのがもっとも適切かと思われるが、「BAND-MAIDがまた変態してる」などと書くと、日本語では別の意味に取られる可能性もあるため、難しいところです。
コロナ禍を経て、さらなる「変態(脱皮)」を遂げたかに見えるBAND-MAID。特によく指摘されるのが、セカンドギターの女の子の目覚ましい進歩上達ですね。これはもちろん本人の懸命の努力のたまものでしょう。下の動画開始から約59秒後、彼女のギターが突然火を噴いたかのような轟音を発する。


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こーゆーのを見ていると、BAND-MAIDはいずれツインリードギター態勢となるのかも知れん。それがBAND-MAID進化の、あるいは変態の、究極的形態となるのかも知れない、とも思います。

やっぱり日本語がいい!!

こちらの記事でも少し触れましたが、この「After Life」というのも個人的に好きなナンバーです。イントロからして痛烈です。


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BAND-MAIDの音楽は、形の上では昔のハードロックバンドのスタイルを模しているかに見えるが、その本質は似て非なるものです。彼女たちはそこに新しい生命を吹き込んでいる。それは彼女たちが今現に耐え忍んでいる苦痛から発生する怒りのパワーです。例によってちょこっとだけコピーライトを無視して歌詞を引用しますが、

愛だって恋だって何だっていい
呼び名なんて重要じゃない
どんな理想も吐き出す冗談
もう夢なら覚めてよ…

この「どんな理想も吐き出す冗談」のところ、私の耳にはいつも「どんな理想も吐き出しそうだ」と聞こえる。それはともかく、私がこの歌を聴いていて気になるのは(「Thrill」を含むBAND-MAIDの他のヒット曲もそうですが)「これが外国人に理解できるかしらん?」ということです。
例えばLOVEBITESも海外で人気のガールズバンドですね。これは当然といえば当然で、LOVEBITESはすべて英語で歌っていますからね。それで私には、LOVEBITESの演奏技術が優れていることはわかるが、英語がわからないので、歌はぜんぜんピンと来ませんね。これはLOVEBITESが素晴らしいバンドであることを認めた上で言うのですが、LOVEBITESはわれわれ日本のリスナーに対して背中を向けているという印象が、どうしても拭えませんね。
BAND-MAIDにも100%英語の歌がある。「The Dragon Cries」という歌で、アメリカ生まれの大プロデューサーが手掛けたという作品ですね。私はこの歌のMVも観たし、ライブ映像も観た。文明批評的な意味を込めた立派な歌詞に、スリリングなメロディがついて、演奏はもちろんうまいし、メインヴォーカルの女の子の解釈も巧みだとは思ったが、やはり私の語学力が低いせいか、いまいちピンと来ない。でも英語圏のリスナーには喜ばれるでしょうね。
これに対してBAND-MAIDの他の歌は、カタコトの英語まじりではあるが、すべて(かどうか知らんが、たぶん)日本語の歌ですね。それもネイティブの日本語話者でなければまず理解できないだろうと思われるほどの純然たる日本語です。BAND-MAIDのリリシストは、なかなかの詩人だ、と私は思う。上の「愛だって恋だって何だって」のあたり、われわれ日本人の胸にはまっすぐに刺さるのです。メインヴォーカルの女の子にしても、上の動画に見られるようなパンチの利いた、パワフルな歌唱ができるのは、日本語の歌詞だからこそではないでしょうか。英語の歌詞では、あれほど感情をもろにぶつけるような歌い方はとてもできますまい。
BAND-MAIDの歌は、海外のリスナーの耳にはどう聞こえるのか。それは残念ながら、私の想像力の及ぶところではない。ただ私としては、自分が日本人であることを神に感謝するばかりです。ちなみにこの「愛だって恋だって何だっていい」のところ、英訳を探してみると、

Love, its embrace, its fervor, or whatever you want

となっていました。まあ英語では「愛」も「恋」も ‘love’ と訳すのが普通だから、上のような訳詩になるのもわかりますが、これでは原詩の、

何よもう!!マジでアッタマ来た!!!!

というニュアンスが、あまり伝わらないのではないかという気がします。
下はこちらの記事で触れたBAND-MAIDの「Manners」という歌の英語によるカバー。


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なるほどとは思うが、やはりオリジナル(日本語)の方がいいですね。