魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

初夜(『レスボスの女王』より)

ルネ・ヴィヴィアンについての一般的な情報はウィキペディアなどをご覧下さい。この本(ジャン・シャロン著『レスボスの女王』小早川捷子訳)は晩年のナタリー・バーネイの思い出話をもとに書かれているので、ちょっと他所では聞けないような話も聞くことが出来ます。たとえばウィキペディアではルネ・ヴィヴィアンは(少なくとも酒と麻薬でボロボロの身体になるまでは)「エレガントな美女で、金髪で、金色がかった茶色い目をしており、物静かな話し方をする中性的な雰囲気の人」だったとされていますが、ナタリー・バーネイはこれに反駁して「ルネは金髪だったとよく言われましたが、ほんとうは灰色がかった栗色でした」と言ったそうです。
ヴァイオレット・シリトーが二人を引き合わせたのは1899年、ナタリーが24歳、ルネが23歳の頃です。最初二人は互いの詩を朗読し合ったりしていたが、二人が本当に親密になったのは文学作品を介してでは無いらしい。この本によると、ルネはナタリーにスケートの腕前を見せびらかしたかったので、ナタリーをアイスパレスに引きずっていったそうです。ナタリーは拍手喝采し、そこで二人ははじめて打ち解けて、それこそ女学生的なノリでプライベートなネタや将来の夢について話し合うようになった。
ここで一つの問題は、ルネにとってナタリーは何人目の恋人だったかという点で、この本ではこれがルネの初恋だったと断定されております。それではルネとヴァイオレットの関係はどうだったのでしょうか?ルネは確かにヴァイオレットを愛しており、だからこそヴァイオレットが死んだとき、ナタリーに夢中になってヴァイオレットをなおざりにしていた自分自身を責めたわけです。しかしこの本に挙げられているもろもろの証拠(特にルネが自分の小説の中で書いている言葉)から考えて、やはりルネにとってナタリーははじめての恋人だったと考えた方がよさそうです。少女時代から方々に「愛人」を作っていたナタリーとはえらい違いです。
さて、ナタリーはルネを家族に紹介し、ナタリーの母アリスはルネに好感を示します。それからブーローニュの森の散歩、愛の告白、花束の交換と進み、それからルネはナタリーを自分の寝室に招き入れます。それから…それから、この本は二人の「初夜」についても触れております。そんなことまで書いていいのか?しかし当事者のナタリー・バーネイ自身が無造作かつ赤裸々に書き残しているのですから仕方ありません。いわく「わたしのあらゆる経験をもってしても、彼女の肉体的な無気力に打ち勝つことはできなかった。彼女の魂だけが結合にふるえた」。
欲求不満のナタリーは眠れませんが、それなりに感激にひたっているルネに相手のことまで気が回るわけがありません。帰ろうとするナタリー。引き止めるルネ。外へ出ると雪が降っていた。「雪と不眠のせいで、夜は二重に白かったに違いない」…