「舞-HiME」の話をしましょうか。実はチガハルさんのブログ「シアーズ宮(乗っ取りました)」で「舞-HiME」のファンフィクションを読んでいて、急に本編(アニメ)のとあるシーンがもう一度見たくなり、TSUTSYAに行って借りてきたのです。そのシーンとは、言わずと知れた玖我なつきと藤乃静留の「相討ち」(「心中」?)のシーンですが、その話をする前に、このアニメをおおざっぱにご紹介せんといけません。詳細はまたウィキペディアなどに譲るとして、必要最小限を以下に述べます。
風華学園という、四国のとある私立学校(男女共学)。ここにHiME(「ひめ」Highly-advanced Materializing Equipmentの略)と呼ばれる超能力少女たち(中には「少女」とは言えない年齢の人も混じっているが)が日本全国(一部海外)から集まってまいりまして、それはある人物がある目的のために呼び集めているからであった。そのHiMEなるものの特徴ですが、彼女たちはそれぞれエレメントと呼ばれる武器、およびチャイルドと呼ばれるモンスターを呼び出すことができる。これらはすべてこの少女たちの、内に秘めた暗い情念の「具現化」と見てよいようです。
さて、彼女たちは何のために集められたかというと、互いに戦って優勝者を決め、その優勝者はこの世界を存続(あるいは更新)させるために使用されるというのです。あまりのあほらしさに呆れてしまいますが、もっと呆れたのはHiMEたち自身の方でしょう。しかもこのゲームには一つの非常に苛酷なルールがついていて、それはあるHiMEが敗れると、そのHiMEの「想い人」も消滅するというものです。これは文字通り「消滅」で、キラキラ光る粒子のようなものに包まれて消えてなくなります。
しかし戦えと言われても、何の理由もなしに戦えるわけがない。事実、あるHiMEは「決して戦わないように」と他のHiMEたちに呼びかけますが、そこはもちろん、いろいろと罠が張り巡らされていて、疑心は暗鬼を生み、誤解は誤解を招き、結局彼女たちは好むと好まざるとにかかわらず、「想い人」を賭けて互いに戦わざるを得なくなる。HiMEたちは一人また一人と倒れ、「想い人」たちは次々と消えてゆく…といった具合に、陰惨きわまるゲームが展開してゆきます。
藤乃静留もまたHiMEの一人で、風華学園高等部の生徒会長です。この色白の京美人は、そのはんなりとした京都弁のうらに、鋭い知性と強い意志力とを感じさせる。また彼女は実は同性愛者で、二学年下の玖我なつきに想いを寄せているが、普段はこれをおくびにも出さず、「無二の親友」として接しております。
他方、玖我なつきというHiMEは少し中性的な感じのする美少女で、事実、彼女はある事情で、幼い頃からある地下組織(文字通り地下にあったりする)と渡り合ってきたために、その言葉使いや物腰に「女戦士」の風格を漂わせている。彼女のセクシュアリティは、ようわからんところもあるが、一応ストレートと見てよろしいでしょう。藤乃静留を大変慕っているが、それは学園内で孤立していたなつきと初めて親身に接してくれたのがこの上級生だったからで、静留の下心を知ったときには大変なショックを受けますが、やがて思い直して、たとえ静留の気持ちに応えることは出来ぬにせよ、自分は自分なりにやはり静留のことが好きだと結論する。
さて、その玖我なつきにも最後の時がやってきます。なつきは、その前の晩、アニメでは風華学園寮の鴇羽舞衣という別のHiMEの部屋に泊まっておりますが、ナカガワヒロユキのノベライズ版(徳間デュアル文庫)では、彼女と鴇羽舞衣は風華学園の体育館で一夜を過ごすこととなっている。「一夜を過ごす」の意味を誤解されると困るのですが、要するに体育用具をひっぱりだして、一晩中飛んだり跳ねたりして遊ぶわけです。私はこの小説版でこのシーンを読んで大変感激いたしまして、あとからアニメを見てこのシーンがないのでひどくがっかりしたものです。
それはともかく、その明くる朝、玖我なつきと鴇羽舞衣は学校へ向かって寮を出ますが、広大な敷地内の別の方角へ向かうので、まもなくお別れとなります。なつきは舞衣に向かって、とても静かに言う。「私は恐らく生き残れない。すべてをお前に託す」。この静かな感じがよいと思います。泣いたりわめいたりは一切ありません。そこへヤマダ(なつきの協力者で、正体のよくわからない男)が現れて、なつきに巨大なオートバイをプレゼントする。「これはサービスだ。あんたは上客だったからな」。なつきの余命があと数時間と知っていて、わざわざそんなものを届けに来るのです。ヤマダともまた笑顔でお別れとなります。
廃墟と化した校舎。ヤマダにもらったバイクで階段を駆け上がり、生徒会室に突っ込んでみると、そこでは藤乃静留が何事もなかったかのようにお茶を啜っている。実は静留はつい今しがた、なつきと抗争していた例の地下組織をたった一人で壊滅させてきたところである。静留に言わせれば、それはあくまでなつきのためを思ってやったこと。しかしなつきは静留がもはや以前の静留ではないことを知っている。彼女の暴走を食い止められるのは自分だけだ、となつきは考えるわけですね。
なつきの「エレメント」はピストルで、その銃口が藤乃静留に向けられる。ところでこの勝負、実はどっちが勝ってもなつきは助からない。なつきが負ければもちろんですが、仮になつきが勝ったとしても、静留の「想い人」はなつきなので、静留が倒れればなつきは消滅の憂き目を免れません。なつきはそのことを重々承知の上で、それでもあえて静留に戦いを挑むのですね。静留もためらうことなくこれを受けて立ちます。可愛さ余って憎さ百倍というところでしょうか?「たとえあんたに恨まれても、あんたをうちのものにしてみせます」。
そして恐らく大方の予想通り、勝負は静留の圧勝に終わります。デュラン(なつきのチャイルド)はこのとき格段にパワーアップして現れますが、カグツチ(鴇羽舞衣のチャイルド)に次ぐ強大さを誇る清姫(静留のチャイルド)の前には、如何ともしがたい。それだけなつきに対する静留の恋情は強く烈しいのだとも考えられる。とどめを刺すべく、静留が近づいた時、なつきは不意に静留の唇を奪い、そして静留がひるんだ隙に、デュランに命じて清姫を爆破させてしまいます。これは汚い!騙し討ちですね。しかしそれは、静留にとってはもはやどうでもよいことです。彼女はとうとうなつきを手に入れたわけですから。爆風の中、ひしと抱き合ったまま、二人の少女は消えてゆきます。(第25話)