『吸血鬼カーミラ』(翻訳小説)
西欧世界における吸血鬼文学の起源について考える時…
先生はわたくしがこれを冷静に書き上げたと思っておいでのようですが、とんでもない…
将軍のお話し中、カーミラが今しがた入ってきて出ていった同じドアから、見たこともないような変人が姿を現した。その人物は長身で、胸幅が狭く、背中が曲がっており、怒り肩で、黒装束だった。その顔は日に焼けて、深いしわが刻まれ、ひからびていた。頭の…
「娘の容態は」と彼はふたたび語り始めた。「急激に悪化していった。どう見ても重病なのに、娘がかかっていた藪医者は『どこも悪くない』などと言い、僕の心配ぶりを見て、ようやく診察を提案する始末だった。僕はグラッツからもっと有能な医師を呼ぶことに…
「しかしまもなく、いろいろと不都合が生じてきた。まずはじめに、ミラーカが体調不良を訴えた。最近の事故の痛手が尾を引いているらしく、正午をだいぶ過ぎてからでないと起きてこないのだ。次に、ミラーカはいつも自室のドアを内側からロックしていて、メ…
「『伯爵夫人。二、三時間、お出かけになるのですか』深々と頭を下げながら、僕は言った。「『二、三時間かも知れませんし、二、三週間かも知れません。折悪しく不都合な知らせが参りました。まだわたくしがおわかりになりませんか』「『全然』と僕は答えた…
「わかったよ」将軍はやっとのことでそう言って、それから考えをまとめるためにしばらく黙っていたあとで、世にも不思議な物語を語り始めた。「僕の娘は、君の親切な取り計らいで、こちらの美しいお嬢さんとともに過ごせる日々を、とても楽しみにしていた」…
私たちが将軍に会うのは十ヶ月ぶりのことであったが、たったそれだけの間に、彼の風貌には何年分もの変化が生じていた。彼は元来痩せていたのがさらに痩せて、彼の顔立ちを特徴づけていたあの肝の据わった平静さが、何かしら陰気な落ち着きの無さと入れ替わ…
付き添いの者が彼女の部屋で眠るという話を、カーミラは聞き入れようとはしなかった。それで私の父は、召使いが一人、彼女の部屋の戸の外で眠ることに決めて、それは彼女がふたたびそのような遠足に出かけようとした時に、部屋を出たところで必ず逮捕するた…
私たちが無理やり押し入ったその痕跡を除いては、何ひとつ乱れていない部屋の様子を見て取ると、私たちは少しほっとして、たちまち分別を取り戻し、男たちを解散させた。それと言うのもマドモアゼルの頭にふと閃いた考えによれば、恐らくカーミラは外の騒ぎ…
「あなたの母は、暗殺者に注意するようあなたに警告します」
私がどれほど嫉妬深い女か、あなたは知らないでしょう。
「私は誰とも恋をしたことはないし、誰とも恋をすることはない」と彼女はささやいた。「あなた以外の誰とも」
あなたは私のもの。誰にも渡さない。あなたと私は永遠に一つに結ばれている。
「奇遇ですね」
これからする話はあまりにも奇妙なので、もしあなたが私という人間の誠実さを少しでも疑っていらっしゃるなら、とても事実とは思われないだろう。とは言えこれはただ単に実話であるだけでなく、私自身が一人の生き証人なのである。ある美しい夏の夕べ、先に…
此処スチリアで、私たちは大金持ちでも何でもないのに、お城に住んでいる。ここでは少ない収入で豪勢な暮らしが出来る。年収八百か九百もあれば魔法が使えるのである。私たちの収入など、本国のお金持ちの間では、無きに等しい。私の父はイギリス人で、私の…
本稿に付された書類の中で、ヘッセリウス博士はかなり綿密な注をつけて…