魔性の血

リズミカルで楽しい詩を投稿してまいります。

抒情詩「わたしを刺して」他一篇

ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク「血の池」ウィキメディア・コモンズより。

わたしを刺して

心ないわたしを刺して
心ないわたしを刺して殺して
この胸をひと突きにして
おびただしい返り血を浴びて殺して

湖のほとりで刺して
美しい湖を血の海にして
わたしの散りぎわを見て
おびただしい花びらを浴びて殺して

こと切れたわたしを抱いて
亡きがらを泣きながら抱きしめていて
くりかえし わたしを呼んで
くりかえし くりかえし あざむいたわたしを

洪水の森

今日もまた 店をひらいていた女子が 店をたたんだ
 天分の乏しい女子は だまされた果てに身ごもり
 天分の豊かな女子は だまされてみずから身売り
ぼろもうけした天使ほど 生活は荒れてすさんだ
この森は 色とりどりの鳥が住み 狩りが盛んだ
 若者は 寝ても覚めても 耳もとに鳥のさえずり
 馬鹿者は 天使の羽根に魅せられて 悪魔とちぎ
わたくしは 少女の肉を食いすぎて ツケがかさんだ

悲しみの波がすべてを飲み込んで 視界から消す
 脳髄を襲う洪水 明けぬ夜はあまりに長く
引いてゆく水の中から現れる 聖なる遺跡
歴史家は記憶の外科医 指先に最強のメス
 あけぼのの接吻を待つ傷口は あまりに深く
血の海に浮かぶ人魚の性器こそ まさに宝石

抒情詩「魔女裁判」他四篇

「魔女の審理」ジュール・ミシュレ著『魔女』(1911年版)の挿絵。描いたのは春画家のマルティン・ファン・メーレ。ウィキメディア・コモンズより。

魔女裁判

病める少女を
 お金で援助
 たった二枚で
したい放題
和姦強姦
 責め折檻
 痴態醜態
見たい放題
「少女よ 君は魔少女だ
  君の痴情は異常だからだ
  売ればうるおう淫婦いんぷの陰部
 最高刑に最適だ」

魔女裁判は大詰めだ
 傍聴席はすし詰めだ
被告の少女
 死を待つ妖女
断頭台は正面だ
ところが無罪放免だ
 原告側を拘束だ
 弱者を食って強者に売った
密告者への宣告だ
「だます男子は断罪すべし」
 断頭台に万歳だ

魔女狩り

魔性のものを狩りましょう
 美少女たちを狩りましょう
 こんな気持ちはひさしぶり
灰になるまで愛したい
真っ白なのは素肌だけ
 恥部は真っ赤な薔薇だらけ
 そんなあなたを狩りましょう
そんなあなたを見せしめに
昇天させてやりましょう
 火あぶりなんてひさしぶり
 見たいあなたの焼死体
灰になるまで愛したい

笑えるわ

笑えるわ いつも澄ましているひとが こんなありさま
 聖女とも呼ばれたむすめ そのうらでよい子をいじめ
 天使らの甘い生き血を吸っていた 実にふまじめ
このむすめ そんなあなたが昼間から ねえお姉さま
花びらを見せびらかしている姿 とってもぶざま
 人として耐えたい痛み 人としてつけたいけじめ
 鞭打たれ 引き回されている様子 とってもみじめ
それでいて常と変わらぬ澄まし顔 まるで神さま

教会の魅せる魔女狩り そのかげでむさぼる暴利
 十字架に少女をつけるこの趣向 実に風流
ともどもにその花びらを愛でるなら すなわち視姦
こもごもにその花びらを散らすなら それは輪姦
 焼くもよし 煮て食うもよし お好みのメニューで料理
あこがれの上級生と下級生 夢の交流

魔女狩りの日

何ひとつ 罪を犯していなくても 処刑されたい
 殉教がしたい少女はお待ちかね 今日は魔女狩り
 聖女ならすべてはりつけ 妖女ならすべて火あぶり
聖と俗 善と悪とは同じもの 表裏一体
今日だけは いつもいい子のふりをやめ さらす醜態
 聴こえない声を「聴いた」といつわって 聖女を気取り
 食えぬ子を「食って捨てた」といつわって 悪い子のふり
弁護士は何も言うまい 容疑者ははやく死にたい

聞く者を震撼させる罪状を すべて白状
 夜遊びの蛇の交尾で身ごもった あの子は無罪
神の子を 処女ではらんだ大罪で 死ぬのはわたし
万人の目にさらされたこのからだ ついに炎上
 きむすめの証明としてあばかれる恥部に万歳
潔白で生き抜くよりも 罪を着て死ぬ方がまし

聖処女

十字架にかけて見せびらかしている 立派な裸体
 教会の責め折檻や拷問で 吐いた女子たち
 口を割り 犯した罪をしたたらす 赤き舌たち
アメをなめ 鞭で打たれた美女たちが さらす醜態
ただ一人 口を割らないこの少女 神と合体
 草むらのかげに捨てられ 幸せを知らぬ生い立ち
 あの世での明日あすを夢みる枕頭ちんとうに 神がり立ち
天界の香気を吸って 瓦斯ガス体の精子で受胎

魔女ならばすべて火あぶり 巫女ふじょならばすべてはりつけ
 教会は妖女を排除 害虫をことごとく駆除
ただ一人 口を割らないこの少女 ゆゆしき事態
アメをなめ 鞭打たれても割らぬなら 叩き割るだけ
 げらげらと笑うからだが店びらき これが聖処女
天球をはらんだ子宮 天体をはぐくむ母胎

抒情詩「お誕生日は何曜日」他一篇

アントワーヌ・ヴィールツ「飢餓、狂気、犯罪」ウィキメディア・コモンズより。

お誕生日は何曜日

お誕生日は何曜日
 はやくケーキを焼きましょう
 数十人の住人が
ともに祝ってくれるから
当女子寮の寮生は
 良識のある方ばかり
 先輩となら乾杯を
後輩となら交際も
白いからだで払いたい
 優しい愛の授業料
 愛は有料 死は無料
魑魅ちみ魍魎もうりょうも感無量
お誕生日は何曜日
 はやく焼きたいこのケーキ
 数十人の住人が
よだれたらして待っている

真犯人は何人だ

殺人犯は凶暴だ
 窃盗犯は泥棒だ
 だから逮捕は大変だ
おやつはバウムクーヘンだ
「ごめん下さい 警察だ
  謝罪ではない 挨拶あいさつ
 少女はどこだ
  寝台しんだい
 全裸だ 見たい放題だ
 なるほど これは怪事件
  魅せる美少女選手権
  愛を知らない人形が
 愛を売り込む営業か
 売ってうるおうこの天使
  買って渇いたその彼氏
  買えば買うほど渇いた彼を
 切って刺されて失血死」
 この警官は最低だ
だが探偵は払底ふってい

真犯人は何人だ
 この犯行は残忍だ
 だから凶徒は何人だ
甘い豆腐は杏仁あんにん
「ごめん下さい 犯人だ
  教師だ 実は担任だ
 少女はどこだ
  寝台しんだい
 人殺しとは心外だ
 だってこの子は許嫁いいなずけ
  いつものように抱いただけ
  服を脱がせて鞭打っただけ
 魔が差したから刺しただけ
 刺せば刺すほどよろこぶむすめ
  よろこびに酔うこのむすめ
  白いからだに真っ赤なお酒
 これぞ魔性の血のうたげ
 この教員は狂人だ
その凶器こそ凶刃きょうじんなのだ

抒情詩「目をそらす日々」他一篇

baysidehawkさん撮影「ひっそりと咲く小さな白い花」photo-ac.comより。

みにくい花

And laugh - but smile no more.

かたくていじらしかった
あの日のつぼみのほほえみはなく
今はただみにくい花が
花びらを見せびらかして大笑いしている
あの日のほほえみはなく
あの日の可憐なかたさもなくて
今はただ咲いてしまった
みにくいばらの花の正体を見る

目をそらす日々

草むらのかげに隠れた笑いから 目をそらす日々
 目を留めた者は誰しも垂れ流す 不潔なよだれ
 目をそらす者は誰しもことごとく 心が乱れ
みずからを亡き者として 棺桶に閉じこもる日々
わだつみに遠く広がる笑いから 目をそらす日々
 未来ある者のひとみを輝かすものはあこがれ
 未来なき者は ひとみに映るものすべてを恐れ
穴を掘り 地下に隠れて 棺桶に閉じこもる日々

目をそらすふりをしながら目を凝らす 狂おしき日々
 草むらのかげに隠れて咲いている女が憎い
棺桶の中で夢みる罪深い夢は 復讐
花びらを見せびらかして咲いている花はみにくい
 返り血を浴びてげらげら笑う日を 夢に見る日々
棺桶の中で一つに結ばれて 飾る有終

(日本語訳)ボードレール「地獄落ちを宣告された女たち(Femmes damnées)」

フランシスコ・デ・スルバラン「大アントニオス(=聖アントワーヌ)」。白いチュニックと焦茶色のスカプラリオの上に外套を羽織っている。ウィキメディア・コモンズより。

物思う家畜のごとく 砂浜に寝そべりながら
はるかなる水平線に目を向ける この女たち
結ばれた片手と片手 絡み合う足と足には
快感のけだるさがあり 激痛のわななきがある

長年にわたる思いを その胸に秘めた少女は
さらさらと水の流れる叢林そうりんの奥に隠れて
臆病な乙女心であこがれたひとの名前を
刻むべく 若い盛りの新緑の木を傷つける

の女子が 尼僧のごとく ゆっくりと またしめやかに
歩みゆく 夢幻に満ちた岩山は 熔岩に似た
むきだしの 紫色のおっぱいが現れるのを
大アントニオスが修行中 見た岩山だ

の女子は 枯れ木でできた松明たいまつのともしびのもと
いにしえの異教徒たちの 空っぽの巣穴すあなにこもり
痛恨の極みの念を眠らせる酒神バッカスさまよ
絶叫とともに あなたの名を呼んで 救済を乞う

の女子は 修道服スカプラリオをよろこんで身に着けながら
丈長たけながき着衣の下に 一本の鞭を隠して
ただひとり過ごすな 生い茂る木立のかげで
受刑者の流す涙に 快楽のあぶくを混ぜる

処女たちよ 化け物たちよ 悪魔らよ 殉教者らよ
現実を馬鹿にしている 偉大なる精神たちよ
時として叫んでばかり 時として泣いてばかりの
永遠を探し求める 痴女たちよ 求道者ぐどうしゃたちよ

地獄まで わが魂が追ってきた妹たちよ
私には 君らのことが 痛ましいまでにいとしい
君たちの苦悩のゆえに 癒やされぬ渇きのゆえに
大いなる器を満たす 測り知れない愛のゆえに


*『悪の華』第二版111。原文はこちら(朗読付き)。同名の「禁断詩篇」についてはこちら